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テキスト活用の勘所

西村 伸郎(ジャイロ総合コンサルティング株式会社 取締役会長)

 

 

要約

●研修講師をする際には、用意されたテキストを読み込むことだけでなく、講師の話に興味を持ってもらうための工夫について考える必要がある

●講師の考え、受講者の意見など多様な意見をやり取りすることで、用意された演習教材は最大の効果を発揮する

●最後の振り返り・要点総括では、あえてテキストを何も見ずに熱く語りかけることで「何となく」終わらせない

 

 

研修にあたっての心構え

用意されたテキストを用いて研修を行うという以前に、心がけるべきことがある。もちろんテキストを読み込み、何を話すかは当然に準備することだが、より重要なことがある。それはどのように伝えるかを知ることである。多くの研修の目的は、受講者が知識を得ること、あるいは既に知っていることを深く浸透させることだろうが、そのためには、講師が話すことを理解してもらう以前の課題として、講師の話に興味を持ってもらうことである。話に興味を持ってもらうには、様々な手法があり得る。

 

興味を持てないことを前にしては、どれほど重要なことであっても、耳から情報が入るだけでは研修内容の真の意味を理解できないし、記憶に残らない、または何かと言い訳を用意して実行すべきことを避けるだろう。受講者に興味を持ってもらう対象は、もちろん研修内容が挙げられるが、それ以外に講師自身の人柄や経験、受講者自身の知識や職務と受講内容との関連、さらにそれらが自身の今後の業務に役立つのかということなどが挙げられる。

 

講師自身の人柄や経験に興味を持ってもらうには、自己紹介という方法が一般的だろう。自己紹介では簡単に経歴や経験を説明するのであるが、その場合は、これから話す講義内容との関わりがあることを中心に話す。経歴や職歴、あるいは自身の講座内容との関わりの経験談を説明する際には、決して自慢話にならないことが求められる。講師が自慢話と意識はしなくとも、過去の経歴や実績を並べたてると、受け手にとっては自慢話に聞こえかねない。要点は、自身の失敗の経験や弱点も交え、時には笑いをとることが必要である。

 

受講者の知識や職務との関連に興味を持ってもらうためには、できるだけ身近な事例を挙げながら、あるいは長期の展望を踏まえた今後の有益性を訴える。多様な部署や職種が受講する場合は、全ての人たちに関わりがあることを説明することが難しい。僕はこのような場合、受講者の一人に語りかけるようにしている。例えば、「あなたの今までの業務の中で、〇〇で戸惑ったことがありますか?」などを問いかける。具体的な事柄は理解しやすいし、容易に理解できることは自身との関わりを想像しやすい。

 

説明の方法

説明の方法とは、プレゼンテーションの方法と理解して良い。プレゼンテーションとは、多くの方を対象に、資料などを使って、講師が内容を伝えることである。どのような場合でも、受講者に目を向け、明瞭で理解しやすい話し方で、講師に注意を引きつけながら伝えることが肝要となる。要するに、視線、話し方、ジェスチャーからなる身体の各部分を使った動きに他ならない。

 

まず視線であるが、まっすぐに受講者を見つめる、特定の一人の目を見る。その特定の一人は、一つの話題毎に変える。見つめられると、相手は何がしかの反応するはずである。うなずくこともあるだろうし、目線を落とすかもしれない。そのような反応を見ることによって、講師は受講者が理解しているか、興味をなくしているのかなどの多くの情報を得ることができる。このような受講者との交流によって研修が活性化することにつながる。

 

話し方については、元来その人が持っている声の大きさ、口調の明瞭さ・速さ(早口かどうかなど)、口癖などが影響する。それらを心掛けだけで変えることはそれほど簡単ではない。それでも、訓練することである程度変えることは可能だろう。声の大きさは、訓練することによって大声で話せるようになる。最も重要なポイントは、研修開始時の第一声の出し方と、オーバーアクションを心掛けるということだろう。とにかく、第一声は明瞭であることと、大声で話し出すことを心掛ける。しかもそれは、「大丈夫だろうか?」とこちらが思うほど、オーバーアクションの方が良い。

 

視線、話し方、ジェスチャーの中で最も難しいのは、足の運びと手の動きからなるジェスチャーかもしれない。足の動きは、動き過ぎてもいけないし、壇上で全く動かないのも良くない。足の運び以上に難しいのは、手のジェスチャーだろう。自然な手の動きが良いとされるが、どのような動作が自然なのかが判然としない。僕自身も研修中にどのような手の動きになっているのか、自覚したことがほとんどない。またあらかじめ、「ここでは、このようなジェスチャーを行う」と決めておくことはない。突き放すような結論だが、ジェスチャーは自然に任せる、そのためには緊張しないでフランクを心掛けるしか方法はないだろう。

 

 

演習の方法

研修教材には、演習が用意されていることが多い。演習には個人演習とグループ演習があり得る。個人演習では、演習シートに記述する場合もあるし、単に考えるだけのものがあり得る。グループ演習には、隣席同士の方で話し合う、5人程度のグループで討議する、あるいは研修会場全体で討議する場合もある。演習テーマ、受講者数、演習に費やす時間の余裕によって適宜判断して、指示することになる。

 

多様な演習形態がある中で、最も講師の手腕が問われるのは、研修会場全体での討議だろう。まず、「これについて、意見がある人はいますか?」などと問いかけるわけだが、最初の問いかけでは手を挙げる人が現れることは期待できない。そこで、少し待っても誰も声を上げない場合は、誰かを指名する。受講者の中には、何となく話したくなるような素振りを見せる人がいるはずで、このような人が誰かを見極める必要がある。目を伏せがちな人は決して指名してはならない。

 

指名した人が意見を述べた後には、講師は謝意を述べることを忘れてはならない。次いで、その意見を要約するなり、復唱するなりして確認した後で、講師自身の考えを述べる。講師は受講者の一人が話した内容に全く同意できないこともあり得るし、こちらが期待している意見そのものであることもある。どちらの場合であっても、その意見に対しても見解を明確にしたうえで、他の意見を募ることになる。このやり取りを行う過程で、演習の本質に迫っていく。まさに、このあたりのプロセスの進め方が講師の力量次第ということである。会場の全員が同じ話題に集中することこそが興味を持ってもらう本質である。

 

振り返り

講座の中で伝えるべきことが説明し終わると、全ての内容を振り返る。何を学習し、今後どのような行動が期待されているのかなどの要点を述べることになる。ここでは何も見ないで熱く語りかける。このプロセスなしでは、何となく終わったという印象を残すことになる。もちろん、これを実践するためには、あらかじめテキストをしっかりと読み込んでおかねばならないだろう。